◆Dear my...◆
幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
軍名ナナミ軍・城名ナナミ城
「クウ、危ない!」
僕の背後に回りこんだ敵に、ナナミが三節棍で応戦する。
目の前の魔物を打ち倒して、ナナミが対峙していた敵に、トドメ。
「もー、油断しちゃダメだよ、クウったら」
「ありがと、ナナミ」
ホントは背後の敵もちゃんと把握してたし、僕の武器は両手でひとつずつ扱うトンファー、
複数の敵にも対応し易い。
言っても納得しないだろうから、言わないけど。
得意げにお姉ちゃんが守ってあげるからね、なんて言ってるナナミは、可愛い。
ナナミが強引に押し切った形で、僕が義弟、ナナミが義姉ってカタチになってるけど、
ナナミのほうが子供っぽいよなって思う。
それに、ナナミは弱くはないけれど、女の子だ。
最近激しさを増してきた戦闘の中では、ちょっと危なっかしい。
技術で腕力を補ってはいるけれど、手数が必要になるから、倒すのに時間がかかる。
時間がかかれば、どうしても敵に囲まれやすくなる。
かといって、留守番は嫌がるし。一緒に居られるのは、ある意味では安心だけど。
「ナナミ、腕、血出てる。治すね」
「え?あ、ダメっ!クウ、その紋章使っちゃダメって言ったでしょ!」
「大丈夫だよ、少しくらい」
「ダメったらダメ!大丈夫だいじょうぶ、これくらい平気だもん!ね、ラスカさん!」
突然話を振られて、フリックと何かを話していたラスカさんが苦笑した。
「痕が残ったら大変だし…治そうか。フリックも消耗してるみたいだし」
ラスカさんが、流水の紋章を発動する。
「ありがと、ラスカさん!わたしも回復系の紋章、持とうかなぁ…」
「ナナミちゃんは素早いから、そうしたらすごく助かるんじゃないかな」
「そっかー。お城に帰ったら、ジーンさんに頼んでみようかな」
後衛で回復を担当してくれって頼んでも、前衛でクウを守る!とか言って聞かなかったのに。
南にある現トラン共和国は、3年前までは赤月帝国と呼ばれていた。
腐敗した政治に苦しむ人々を解放し、ついに帝国を倒し、平和を築いた英雄―
小さなバナーの村の隅で、のんびり釣りをしていた同い年くらいの少年が、その英雄だなんて。
はっきり言って、最初は僕にもナナミにも信じられなかった。
僕らとは質からして違う物腰と、凄まじい戦闘能力を目にするまでは。
ちょっと何考えてるのか分からなかったりするけど、ラスカさんは強くて優しい。
年の近いお兄さんができたみたい、ってナナミは喜んでる。
「ね、ね、ラスカさん、今度また手合わせしてね!次は絶対負けないんだから!」
三節棍を構えてみせて、ナナミがラスカさんに笑いかけた。
とたんに涌き上がる、複雑な感情。
ラスカさんのことは嫌いじゃない。むしろ好きなほう。
だけど、ナナミがあまりにも懐いてるから、その点に関してはちょっとハラが立つ。
ラスカさんとふいに目が合って、思わず思いっきり目を逸らしてしまった。ラスカさんが苦笑する。
運悪く見られていたらしい、ナナミが僕の前に詰め寄ってきた。
「クウ?どうしたの?お腹空いたの?ラスカさんに八つ当たりしちゃダメだよ。お弁当食べる?」
「大丈夫、ちょっと…考え事してただけ。すみません、ラスカさん」
へこんと頭を下げると、やっぱりラスカさんは苦笑する。
「いや、気にしてないよ。ただ、他の人の前で、そんな風に簡単に僕に頭を下げたりしないこと」
「あ…はい」
同盟軍の本拠地―ナナミ城には、カスミさんの率いるトランからの援兵も来ている。
トランの英雄で、当然彼らに英雄視されているラスカさんは、同盟軍においては微妙な立場にあった。
初めてナナミ城に来て貰った時、彼は軍の重役に向かってきっぱりと言い放った。
自分は客将ではなく、僕の友人として来た。扱いは旅の途中にこの城を訪れた者と同等で頼む。
なんだか難しい言葉遣いだったけど、だいたいそんな感じの事を言ってた…と思う。
それでもやっぱり僕は彼に尊敬の念を抱かずにはいられないし、そうなるとつい目上の扱いをしてしまう。
そのたびにやんわりと注意されて、でもさすがに敬語だけは許して貰って、現在に至る。
…ナナミはいつの間にか、すっかり敬語取っ払っちゃってるけど。
ラスカさんはナナミの恋愛対象に入っちゃってるんだろうか。
「ナナミ、ナナミは好きな人っている?」
「へ?うん、いるよ?クウとジョウイとピリカちゃんと…」
「そう来ると思ってたけど、そうじゃなくて…結婚したい人とか」
「ケッコン?やだクウったら、わたしまだそんな歳じゃないよー!フリックさんだって一人身なのに」
前を歩いていたフリックが、がくんとよろけた。慰めるように、ラスカさんが青マントの背中をぽんぽんと叩く。
そういえばニナが言ってたっけ、忘れられない人がいるとかなんとか。意外と女々しい…?
「それじゃ、今は特に好きな人っていない?」
「ケッコンしたい人?うーん、いないかな。クウとジョウイの世話で手一杯で、それどころじゃないし」
世話って。一番手がかかるのはナナミじゃ…。
「ねねね、ラスカさんは?好きな人いる??カスミちゃんとか!」
「ナナミちゃん…単刀直入だね…」
「えへへー。こういう話、ニナちゃんが好きだよね。連れてくればよかったね、ね、クウ」
適当に返事をしながら、ちょっとだけ安心した。
対象内かどうかを別とすれば、ナナミの一番傍に居るのは、紛れもなく自分だ。
戦争が終わってキャロに帰ったら、指輪のひとつも用意して、ちゃんとナナミに話してみようか。
おわり
初の2主→ナナミ小説です。
大好きなんだけど、けっこう書き辛いorz
2006年9月