◆ROSERED・WORLD◆
高く無造作に積み上げられた積み木のような―口悪く言えば、無造作に積まれたゴミ山のような、
やたらと重ねられた高いビルの塊。
その一角、全体からすればそう高くはないが、一般のビルと比べれば、充分に高い屋上。
栗色の長い髪と柔らかな桜色の布を風になびかせ、そこに立つ女性の姿があった。
吸い込まれそうに青い空、吸い寄せられそうに遠い地面。
落下防止の手摺りなどという気の利いた物は、朽ち果てたのか、元々無いのか、とにかく存在しない。
彼女が眉をひそめたのは、しかし、すがる物の無い高所ゆえの恐怖感からではなかった。
この場所から少年が身を投じた夕暮れは、そう遠い日ではない。
運命に立ち向かい、己の死をもってさえ、それを突き崩そうとした少年。
「MAKUBEX」
"外"と変わりなく優しい風に、彼女はほつりと少年の名を流した。
「…なんだい、朔羅」
不意打ち。
慌てて振り返ると、いたずらっぽい表情で、少年が微笑んでいた。
どう返事をしたものかと、朔羅は小さく首を傾げた。が、答えを期待していたわけではないらしい。
MAKUBEXは返答のない事を気にした風でもなく、朔羅の横に並んだ。
「ボク達が二人そろって留守にするなんて、緊張感なさすぎかな」
笑師に留守を頼んできちゃったと笑う顔は、とても懐かしい。
彼が彼の信頼する人間の下で、その能力を振るっていた頃の、真っ直ぐな笑顔。
―それを、守れなかった。
この冷たいコンクリートから、たった一人で身を投げさせてしまった。
「ま、イザとなったら、超能力で…」
朔羅は、その柔らかな腕で、MAKUBEXをそっと抱き寄せた。一瞬身を硬くし、すぐに力を緩めると、
MAKUBEXはゆるやかに抵抗してみせる。
「朔羅…鏡クンが見てるよ」
今度は朔羅が身を硬める番だった。注意深く周囲を探りながら、しかしその腕はMAKUBEXの期待に反し、
守るようにより強く彼を抱きしめた。
「…ごめん、嘘」
一瞬の間。
きつく張りつめていた警戒心をゆるめ、それでも朔羅の腕はゆるまない。
「あの…朔羅?」
「…超能力は、ダメです」
ようやく腕をゆるめ、朔羅はMAKUBEXと目を合わせた。
「また体を壊したら、どうするんです。だから、超能力はダメ」
「超能力を使わなかったら、ボクの戦闘能力は限りなくゼロに近いんだけど」
「だから、私たちがいるんでしょう?」
柔らかな風。風に誘われるように"外"を目に映して、MAKUBEXが小さく尋ねる。
「いくら超能力を使っても体を壊さなかったら…朔羅は、どうしてたかな」
「そうね…こんなに近くには、いなかったかもしれませんね」
いたずらっぽく微笑む朔羅はとても綺麗で、MAKUBEXも少し微笑む。
「ならボクは、強くなくて幸運だったんだね」
優しい風、優しい空気。
どちらともなく、ゆっくりと顔が近付き―
『♪チャーラーラーラーラーラーラ・チャラーラーラーラーラーラーラ♪』
狙ったような携帯電話の着信音に止められて、二人はこつんと額を合わせて、笑った。
Fin.
★言い訳あとがき★
マク朔に飢えて、ついに書いてしまいました、マク朔ラヴ甘小説。
マクってIL編中、具合悪そげでしたよね。何でかなー考えまして。
ワイヤードールのワイヤー、どうやって動いてる人間に接続してるのかなーとも思いまして。
で、マクの超能力で全て接続→疲れてヘロヘロ…これだッ!Σ(>u<)←オイ
もしそうなら、朔羅さんはマクが超能力を多用するのは嫌がるだろうなぁと。
こんな単純な考えですみません。ホンマすみません。謝りっぱなし人生。
読んでくださって、ありがとうございましたッ!
需要か欲求があれば、また書きたいと思います(笑)
〜蛇足〜(以下、反転仕様です)
●最後の携帯の着信音はアニメ奪還屋後半OP、PIERROT「薔薇色の世界」。
"破滅を目指す歴史の物語、君と二人ならそれ程恐くは無い"
"諦めかけた景色も、君と二人なら薔薇色に見える"(両方プチ省略/笑)
Myマク朔ソングな今日この頃です。マク朔ラヴ!イィ、スゴクイィ!(壊)●