BELIEVER


 多くの者を手にかけた、生きる為に生物が命を食むように、必死に…しかし、無造作に。
 そして今、彼は新たな標的をその中に秘める建物の前に立っていた。

 どこまでも続く金色の砂漠、その中で真白い塔が、蜃気楼のように美しく揺らめいている。
しかし、柔らかな曲線の模様が刻まれた白壁に手を伸ばせば、ごつごつとした石の感触。
確かにそれは、そこに建っている。

 傍らの砂に突き立てた巨大な剣の柄に手をかけ、男は塔を見上げた。
砂漠の女神が住むといわれる、神の塔を。

 おもむろに砂から剣を引き抜き、男は無防備に口を開いている塔へと、足を踏み入れた。

 ひんやりと冷たい空気はそこはかとなく静謐、眩いばかりに白い壁は荘厳。
どこまでも神聖な空間を、男は血に塗れた香のする無粋な大剣を携え、全てを切り裂くように進んでいった。

 最上階、白い光の差し込む円形の部屋に、羽のようなローブを纏った一人の女性が、
穏やかな静寂の中に端然と座している。

 大理石の床に浅く掘られた溝をさらさらと透明な水が流れていく。
それは時折きらきらと光を反射して、白い石壁を静かに飾ってみせていた。

 だが、部屋の美しさも女性の美しさも気に留めずに、男は手にした大剣の刃を女性に向けた。

 「あんたがこの砂漠の女神か」
 「なぜ、神を狩るのです」

 不躾な男の質問に、女神はその秀麗な眉一つ動かさずに、透明な声で静かに尋ね返した。

 男は、迷わずに言葉を紡ぎだす。低い音が静かに、しかし力強く部屋を満たしていく。

 「神は常に、人間の心の中に居る」

 刃を振り上げ、男が答えた。女神は、動かない。

 「神の存在は、この世に必要ない。意思を持つ強大な力は、存在していてはいけないんだ」

 女神は無抵抗に瞳を閉じた。巨大な刃が、振り下ろされる。

 鈍い音。

 「…だから俺は、神を狩る」


Fin.


9作目囁ピエ[BELIEVER]、「信じる者」でした。
今回は何の工夫もなく、自分の行動と考えの正しさを信じている者の話。
「I gotta believe!(僕なら出来るさ)」By.パラッパ(笑)

04.02.