CHILD


 「早く、早く逃げるんだ!パパもすぐに行く、早く!」
 「パパー!」

 逃げ惑う人々を嘲るかのように、高いビルを折り、住宅地を踏み壊し、全てを破壊し尽くしていく巨大生物。
 数時間前までは平和だった街に―いや、今や世界全体に危機が迫っていた。

 「私はもういいの、あなただけでも生きて…」
 「きみを置いては行けない。俺も残るよ」

 恐怖、混乱、涙―世界を覆いつくす、悪夢のような光景。
 空から降り来るのは、巨大生物の、赤子のような無邪気な笑い声。

 軍隊を始めとする人々の抵抗は、あまりにも非力すぎた。
 ミサイルも決死の特攻も効かない。

 人々の悲痛な叫びの中、満面の笑みを浮かべる巨大生物。

 あらゆる建物は壊され、人は狩り尽くされ、ついに残ったのはただ一人。
 瓦礫と化した世界の中央に立ちすくみ、男は呆然と悪魔を見上げた。

 「世界の終末だ…神よ、なぜ」

 最後の人類が最期の言葉をつぶやくその前に、巨大生物はそれを踏み潰した。



 「はーい、笑って笑ってー」
 「だー」

 積み木で作られた家を蹴散らし、発泡スチロールで作られた小さな人形を踏み潰して、
 赤ん坊が無邪気に母親のカメラに向かって笑った。

 それはもう、天使のように―。


Fin.


19作目囁ピエ、[CHILD]。
8ヶ月ぶりの更新となりました。

CHILD=子供。赤ちゃんだとbaby、本編は少々タイトルから外れてます。
赤子を含め、子供の無邪気さは時々恐ろしい、という事で。

2005年1月