HUMAN GATE


 少女は恋をしていた。
 相手はほぼ同い年の、家政夫兼家庭教師の少年。

 サラサラと風になびく髪、優しげな微笑みを浮かべる秀麗な顔、あらゆる事に精通する頭脳、
線の細い体に秘められた、凄まじい力。顔良し頭良し性格良し、何の遜色も見当たらない、完璧な美少年。

 どうにか欠点を挙げるとすれば、彼の体は鋼鉄製であり、知識や性格はプログラムである事だけ。

 そう、少女はアンドロイドに恋をしたのだ。

 少女の決死の告白を、困った顔で言葉を選んでそっと断る少年に、少女はますますヒートアップ。
 月に一度だった告白が、やがて週一になり、日に一度になり、顔を合わせる度に熱い言葉を送るように
なるまで、それ程時間はかからなかった。

 そこまでされれば、普通の人間であれば、流石に相手に恐怖心を抱きかねない。
 しかし、幸か不幸か、少年はアンドロイド。一生懸命な少女の日々の告白に、少しずつ心が揺れ始めた。

 ある朝少年は、ようやく少女の愛の言葉を受け止めた。初めての告白から1年、375回目のプロポーズ。
まさに少女の粘り勝ち。

 人間と機械の隔たりを超えた二人の愛。しかし当然、少女の両親が素直に二人を祝福する筈が無い。
父親は怒り、母親は泣き崩れ、少女は少年の手を引いて家を飛び出した。


 人とアンドロイドの恋が許されぬものならば。

 悩みに悩んで、彼女らは向かった。唯一の希望、人と人外を繋ぐ伝説の門、"HUMAN GATE"へ。

 目指すはそう、二人で描く幸福の日々。


 長い旅路の末、ついに二人は辿り着いた。

 少女の足にその道のりは険しかったが、優しく万能な、何より愛しい少年との二人きりの旅は、
そう辛いものではなかった。―少なくとも、少女にとっては。

 装飾の少ない白い門が、深い霧の中にひっそりと立っている。

 門のあちら側では、愛しい少年がそっと少女を見守っている。

 大きく息を吸って、少女は駆け出した。門をくぐり、少年の胸に飛び込む。


 柔らかな肉体は失ってしまったけれど、少年の腕の中で、少女の鋼鉄製の心は幸福に満ちていた。


Fin.


7作目囁ピエ、[HUMAN GATE]。
人間の門をくぐって"入る者"ではなく、"出て行く者"。

タイトルをそのまま固有名詞として使うのは、今回が初めてでした。

04.02.