| MAD SKY -鋼鉄の救世主- |
あなたの隣に立っている木が、かつては人間だったと言われたら、あなたは信じるだろうか。 あるいは、公園の隅にある人の顔をした石が、本当に人の顔だった頃があると言ったら。 街の中央に立つ、可憐な乙女の像。 到底信じられないだろうけれど、確かにあの像は昔、人間だった。 あれからもう、50年は経っただろうか。 今はもう知る者は少ないが、この街は、圧政に苦しんだ、苦い過去を持っている。 圧政に追い詰められたのは、何もこの街に限った話ではなかったのだろうが、とにかく、 たったひとりの、勇気ある娘によって。
だが、やがて彼女は真実を知ることになる。 街の現状を知った彼女は、住民を率いて国と戦い、街を独立させた。 完全に国から切り離れたわけではなかったが、自治区として自由を勝ち取った街は重税から解放され、 街のカリスマとなった彼女を称え、街の中央、広場に像を建てようという話が出たのは、解放から半年後。 名だたる芸術家が総力を挙げた。 しかし、像はどうしても上手く仕上がらない。 苦労する人々を見た娘は辞退を申し出たが、人々はそれを認めなかった。 「生気だ。この像には、生気が足りない」 芸術家のひとりが言った。 「あの娘…」街の住民の一人が、暗い声でつぶやく。 「今は美しく聡いが…時が彼女を変えはしないだろうか」 年月が人を変える―その恐怖は根強かった。根強くないはずがなかった。 国王は昔、愚王を倒し、穏やかな国を築いた英雄だった。 だが今は、彼自身も愚王と化し、国を、人々を苦しめているのだ。 ―街は、狂気に包まれた。街の救世主への畏敬の念、英雄から愚王と化した王への恐怖。 「…娘を、像にしてしまおう」 反論する者は…いなかった。 やがて、美しく、生命感溢れる素晴らしい像が完成した。 鋼鉄の肌の下に、やわらかな娘の肉体を秘めて。
だが、私は彼女を殺す事に反対できず、彼女を救えなかった。 私は恐れたのだ。彼女が変わってしまう事を。 きっと私は、心のどこかで望んだのだ。彼女を"永遠にする"事を。 Fin. |
21作目囁ピエ、[MAD SKY-鋼鉄の救世主-]でした。
この曲はpierrot好きになるキッカケだったので、思い出深いです。
己の過ちの恐ろしさに、第三者としてしか語れない。
人の弱さはシビアだけど面白い。
2005年2月