OVER DOSE ※ブラウザ1024×768対応背景使用
きらきら煌く淡い光の粉を、老人はひと息に飲み下した。 薄い雲に覆われた月の下、街にはほつほつと明かりだけが灯っている。 地上に広がる夜空を眺めながら、老人はその長身痩躯をソファに沈めた。 小さなテーブルの上に置かれた硝子のコップが、煌々と蒼い光を零し始める。 足元にすり寄る、黒猫のビロウドのような毛並み。
こんこんと湧き出る小さな泉は優しい桃色、温かな雪の上には小さな足跡が無数に落ちている。 使い古され、すっかり擦り切れたような老人の心に、それらの風景は優しく染み渡っていった。 頬を撫でる風に老人は目を閉じ、深く息を吸った。
どこまでも黒い、小さな箱の中に密封されたように空気の淀んだそこに、 傷付いた記憶、傷付けた記憶。遠く過ぎ去ったはずのそれらが、濁流となって老人を責め苛む。 今更何の用だ。すっかり老いぼれたおれに、何のつもりでこんなものを見せるのだ。 うめいて抱えた老人の頭を、ふわりと柔らかな白い腕(かいな)が包んだ。 振り返るとそこには、先立った妻の、始終変わる事の無かった優しい笑顔。 彼女の微笑に包まれて、彼女の差し出した白い手を、老人はそっと取った。
ソファに沈んだ老人の、もう動かない手足はすっかり投げ出されていたが、皺の折り込まれた顔には、 Fin. |
7作目の囁ピエ、[OVER DOSE]でした。
直訳で"規定量を超える"、なんだか危ない話です。
痛みを含んだ心象風景、大好き。
04.06.