| ACID RAIN |
「紅茶が入ったよ」 夫の穏やかな声と共に、紅茶の柔らかな香りが漂う。 私の向かう机の上にはすでに、冷めた飲みかけの紅茶と、まだ微かに湯気のたつ紅茶が並んでいた。 「今日は美味しいミルクを貰ったから、それでミルクティーだよ」 並んだ3杯のミルクティー。
雨天が関係するわけもないが、その日の私は思うように仕事がはかどらず、イライラしていた。 「あなた、紅茶」 紅茶を切らしたのは、先日の買い出しで、私が紅茶を買い忘れた所為だった。 「今飲みたいの」 雨音。 「…分かったよ」 苦笑する音。遠ざかる足音を聞いても、私は振り返らなかった。 …気にさえ、留めなかった。 血を流しながら、朦朧とした意識の中、それでも彼は救命士に訴え続けたらしい。
3杯の紅茶が、陽の光を反射する。 「そうだ、紅茶を淹れなくちゃ」 Fin. |
23作目囁ピエ、[ACID RAIN]でした。
酸性雨→削り取る、って事で。
2005年9月