※残酷な表現が含まれております。
自殺の理由 |
ばしゃり。 愛用の刃が月明かりに銀色の光を残し、わずかに遅れて、柔らかな肉体から噴き出す紅い雨が、暗闇に するりと刃を仕舞い、鮮血に染まった人影が、細くしなやかな月を見上げる。 ―何度、この紅い液体を浴びただろう。数えるのは疾うにやめた。 この香、この色、この空気。他人の生命でこの身を染める時、ようやく私はこの波打つ鼓動を感じる。 …だが、それも一瞬。 一陣の風が―風の無い夜にも絶えず吹く風が、温かな死の香を吹き消してしまう。私の鼓動と共に、 ドサッ。 背後に軽い荷の落ちる、鈍い音。人の…まだ生きて動いている"人"の気配だ。 私は瞳を閉じた。 「きゃああああッ!!」 くすり、と私は口元で笑んだ。ゲームオーバー。 一筋の光。 噴き出す温かな生命の香は、香水よりも甘く。 ―ああ、私は生きている。 けれど、またすぐに風は吹く。 この薄汚れた魂一つを温める為だけに、不毛に奪うのだ。 どうすれば、この耐え難い渇きから永遠に逃れられるだろう? …ああ、そうか。 「さようなら」 私は私の刃を、自らの喉にあてがった。 …もう、この心が乾く事は無い。 Fin. |
10作目[自殺の理由]でした。
自殺の心理は分かる気がしますが、殺人の心理は未だ分かりません。
04.06.