scene3-大気-

 いつもの石垣に、ポチの姿が見えない。
 焦って捜しかけた僕の目の端。道路の端に、彼はぼんやり座っていた。

 道路の端、ガードレールの向こう側は海岸にすとんと落ちる。
 高さはさほどでもない。下はふかふかの砂。

 驚かしてやろう。
 伸ばした手、押した腕。それはするりと、ポチの背中を通り抜けた。

 落ちる。そう思った瞬間、僕の手はつかまれた。
 ポチに引き上げられて、僕は落ちずに済んだ。

 僕らは並んで座って、ただ黙って海を見た。
 つかんだままのポチの手は、ちゃんと温かい。

 「…どこかへ行ってしまう?」
 「いかないよ、どこにも。ずっとそこに在る」

 ポチはふわりと笑った。

 「僕は大気になるんだ。本当は風になりたかったけれど、時間切れ。
  もうじき何も言えなくなる。笑えなくなる。泣けなくなる」

 「…怖い?」
 「怖くはないけれど、淋しいな」

 僕らは、忘れないよ、とも、忘れないで、とも言えなかった。
 ただ並んで、海を照らす夕日を見た。ただ、隣にいただけだった。


scene4-空気-

 そうして、ポチは消えた。

 桜が咲いて、僕は進級した。
 日差しは柔らかく降り注ぎ、海は穏やかに揺れている。

 彼は何も言わずに往ってしまったけれど。

 「…忘れてないよ、ポチ。
  君はまだ消えない。僕が覚えているから…僕の中に居る。僕が生きるから」

 僕は知っている。
 ポチが、大気になった事。

 だって、頬を撫ぜる風は、こんなにも柔らかだから。

 FIN

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"AIR(空気)"と東北地方の訛を加えた音"逢え(い)る"。
そんな馬鹿にしてんのかコノヤロー!と怒鳴られそうなタイトル由来の、この物語。

元は、画像に重点を置いた、絵本風の漫画として考えていました。
ですが、画力が無いのでやめました(あ痛ッ)

素敵なイラストの描ける技量が欲しいなぁ。
これはもう、クリスマスにサンタ頼みですね☆
正月の神頼みと違って、一切無料ですし(笑)←酷