SPACE IN AN APPLE
リンゴがひとつ、テーブルの上に転がっている。
真ん中で、夢におびえてヨダカが鳴いた。
その声を聞いたサボテンが、南で揺れる。
東に歩くは、サボテンに命を救われた男。
男の手には、西に蒔かれる花の種。
西に咲き乱れる花は、やがて虫を呼び、ヨダカを生かす。
全てが周囲を、周囲が私を、そして私が何かを造る。
それはヨダカであり、サボテンであり、男であり、花である。
そしてそれらは皆、今の私を形成し続けて。
私もそれらも、宇宙という名のリンゴの中に輝いて。
幼い手が伸び、テーブルの上のリンゴを掴んだ。
やわらかい歯がくしゃりと命を食む。
部屋に広がる、涼しい甘い香。
ヨダカの夢は空気にとけた、サボテンや男や私とともに。
後に残るは空っぽのテーブル、ほのかな甘い香。
窓の外、青空の根元にリンゴの樹。
その枝にはぎしぎしと、ひしめく孤独な宇宙たち。
かごにもがれたリンゴの中で、私は再び息をした。
解説
広いような狭いようなこの世界だけれど、
宇宙は丸くて、もっと大きな"世界"の原子のひとつに過ぎないのかもしれない。
リンゴがあの形をしているのは、
内に外を引き付ける重力があるからかもしれない。
いつかこの世界が、大きな何かに事も無げに消化されるかもしれないし、
事も無げに私達が食べたリンゴの中に、小さな誰かが懸命に生きていたかもしれない。
中学のある日、ふと町から国、地球、宇宙へと脳内で画像が遠ざかって、
あまりの自分の存在の軽さに眩暈がしました。
それらを今、まとめて言葉にしてみましたが…
もっと簡単な事なのに、変に小難しくなってしまっているあたり、修行が足りませんね。