Lost-Last
Days of children #1/Nerve
散り始めの桜。
淡い桜色の吹雪の中で、おるごーるはカメラを構えた。
四角く切り取られた景色は、儚く美しい。
ガラス細工の虚構と水で形成されるそこは、おるごーるだけの世界。
近く遠くで、くまんばちの重い羽音が聞こえる。
おるごーるは、周囲を気にして、再びカメラの中。小さな世界。
フレーム越しの目に飛び込んだ世界は、青々と茂った桜の若葉。
慌てて見上げた外の空気は、やっぱり淡い桜色。
こすって開いた目に映るのも、やっぱり淡い桜色。
近く遠くで、くまんばちの鈍い羽音。
おるごーるは、警戒しながらカメラを覗く。狭い世界。
フレーム越しの目に飛び込んだ世界は、縹渺と遥かな枯葉の舞う、すすき色の世界。
慌てて見上げた外の世界は、やっぱり春の桜色。
まばたき二回、やっぱり春の桜色。
遠く遠く、くまんばちの僅かな羽音。
おるごーるは、安心しきってカメラの中。小さな世界。
フレーム越しの目に飛び込んだ世界は、灰色の眠る木々。
慌てて見上げた外の光は、やっぱり優しい桜色。
閉じて開いた目の中に、やっぱり優しい桜色。
おるごーるは、おるごーるの世界を覗き込む。
フレーム越しの目に飛び込んだ世界は、どこまでも広がる黒い― …。
落とした視線に映るのは、すっかりしなびた、おるごーるの手。
くまんばちの羽音は、もう聞こえない。
しわしわのおるごーるの手に、桜の花びらが、くらりくらりとようやく乗った。
解説
花見に行ったら、まだ肌寒いにも拘らず、蜂のような羽音が聞こえました。
正直、ちょっと怖かったです(笑)
写真を撮ろうと思って、レンズの中の区切られた狭い世界を見ていて…
「カメラから顔を上げたら、季節が変わっていたら恐いなぁ」思ったのがキッカケです。
その道を極めようと若い頃から躍起になっても、老いてようやく初めて芽吹く事もあるんですよね。
でも、それも"躍起になった若い頃"があるからこそ、なのかもしれません。