◆クリスマス・ツリー◆
雪が降る。
アスファルトの道にも、灰色のビルにも、色とりどりに飾られたクリスマスツリーの上にも。
ひゅうと吹いた冷たい風が、もみの木から、綺麗な玉飾りをぽとりと落とした。
サクサクと雪を踏む音。
白く空を覆う雪雲の、わずかな光をぴかぴかと反射する玉飾りを、そっと拾い上げる手。
真っ白な息を吐き出して、少女は、手の中の冷たい玉飾りとツリーとを見比べた。
ツリーの前の、すっかり雪の積もったベンチに座り、少女はほぅっとツリーを眺める。
手の中の軽い玉飾りは、やわらかな少女の体温を盗んで、ふくふくと温かい。
「あっ」
少女が声をあげる。白い息。
「星がない」
ツリーのてっぺん、そこに輝くべき金の―あるいは銀や蒼銀の―とにかく光る―星が、そこに無い。
微笑む天使にも、真っ赤なサンタクロースにも、星にも宿られなかった木の頂上は、さも寒そうに北風に揺れた。
「星。星。星を探そう。天使を探しに行こう。サンタクロースを見つけよう」
まぶしいほどに真っ白な雪に足跡を刻んで、少女はサクサクと歩く。
けれど、星も、天使も、サンタクロースの白いヒゲさえも見つからない。
歩き疲れて、あのツリーの前のベンチに、再び少女は腰掛けた。
「…なーんだ」
少女の柔らかな唇から、言葉と白い息が溢れ出す。
「星がなくても、綺麗」
それでもやっぱり、星のないツリーは少し寂しい。
足元の雪をすくって、少女はツリーの横に雪だるまを作った。
ふとつ、ふたつ、みっつ。黒い瞳の雪だるま。
最後に、ポケットの中に放り込んだ玉飾りをツリーに引っ掛けて、少女は街の中へと消えていった。
Fin.
解説
2003年クリスマス企画小説、「クリスマス・ツリー」でした。
降りたての雪の日は、空気が澄んで、冷たくて、なにやら爽やか。
そんな雰囲気を感じていただけたなら、大成功です。
…駄目ですか?(汗)
ちなみに、この文はフリーではありません。
オリジナルをフリーにする度胸は、まだありません…(>_<;