雪。赤月帝国―現トラン共和国では滅多に見なかった、雪。
空から降る白い冷たい物も、身を切るような寒さも物珍しい。
ナナミ城の敷地内だからと、薄着でフラフラ歩いていたら、すぐに捕まった。
グレミオとはまた違った意味での心配性、青雷のフリック。
「寒くないか?」
「うん…まぁ、それなりには」
「また中途半端な返事を…寒いんなら、中に戻るぞ」
「わーすごーくあったかいなーフリックのマントー」
「………お前なぁ」
城内に連れ戻されて、宛がわれた客室の前で別れて、その足でナナミ城屋上へ。
運は悪いクセに勘はいいフリックに、五分と経たずに発見・捕獲された。
この天然ストーカーめ。
中に戻る気のないぼくに、フリックは自分のマントをよこそうとした。
「きみも寒いだろう」と苦笑したら、後ろからすっぽりと抱きしめられた。
ひとつ屋根の下ならぬ、一枚マントの中?
もしぼくが苦笑しなければ、彼はひとりで城内に戻っただろうか。
「雪が見たかったんだ」
「室内でも見られるだろうが。せめて、もう少し防寒具を―」
「寒いの、気持ちいいし」
「カゼひくだろ」
「だから、きみがいるんだろう?」
殺し文句、ついでに必殺(元)天魁星スマイル。
ぽんっ、と青雷が赤くなった。
「あー…そりゃ、まぁ…。でも…」
「青雷って自称?他称?」
「自分で名乗り始めた覚えはないが…っていうか、嫌だろ、自称だったら」
「笑い話にはなるんじゃない?」
「やめてくれ…」
ぼくを緩く抱きしめるフリックの腕は、3年前と変わらない。
ちょっとは落ち着いたけれど、外見も中身も、それほどは変わりない。
シーナやルックやカスミさん、フッチにメグ。同年代の人たちの隣に立つよりは、
己の時が止まっているという実感が薄くて…ほんの少しだけ、安心する。
3年。今はまだ、3年だから。
10年、20年…300年。
「…どうした?」
「いや…何でもないよ。最近はどう?」
「どうって…普通…かな。珍しいな、お前がオレの状態聞くなんて…」
「じゃなくて、国の情勢。―いや、きみの状態がどうでもいいとか興味ないとかじゃなくて」
「フォローになってないし…」
「きみの事は、会えばすぐに分かるよ」
単純だから…という理由は飲み込んで、また赤くなったフリックに笑いかける。
「ニナちゃんの事とか…」
あ、青くなった。
「お、お前、誰に何を聞いた…!?」
「ええと…クウとか、シーナとか、ルックとか…。ファンと燃え上がるか!?愛の炎!!」
「…ちょっと待て、分かってるとは思うが…」
「ニナちゃん、素敵な子じゃないか。十や二十の歳の差なんて、気にするな。ぼくは応援するぞ」
おー真っ青。
「………勘弁してくれ…今はそれどころじゃない」
「戦争中だから?」
「…お前が、側にいるから」
…不覚。ふいうちだ。
「…って言ったら、お前、帰るとか言い出すか?」
…セーフ。
赤くなった顔が冷めていくのを感じて、内心で安心する。
「そうだな…雪が止んだら、帰ろうかな」
「そうか…」
残念そうな声。青いところは変わらない。…やっぱり、安心する。
「ちょうど暇だったら、送ってくれるかな?国境までの山道、虎出るし」
「ああ、いくらでも。…でも、まだ降ってるな」
「うん、降ってるね」
「…やっぱり、中に入らないか?」
「外が見えない所?」
「ああ」
…不覚。自爆だ。
Fin.
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