◆チェス◆
幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
軍名ナナミ軍・城名ナナミ城
「チェックメイト」 晴天に包まれたナナミ城の一室。 敵から取り合げたキングの駒を指先で弄びながら、緑衣の少年が不敵な笑みを浮かべた。 「ルックの性格が悪いんだよ」 かの英雄ラスカ・マクドールは、ナナミ軍主であるクウに誘われるまま、今日もナナミ城に滞在中。 ラスカの周りをブンブン飛び回る小煩い虫がいないだけでも、ルックは上機嫌だった。 「チェスなら、少しは自信あったんだけどな…」 ラスカのあまりの落ち込みっぷりに、弱くはないよ、と言いかけて、けれどルックは言葉を飲み込んだ。 「悪くないけどね…」 窓枠に重ねた両腕に頭を置き、景色を写す琥珀色の、どこまでも遠くを見透かすような瞳。 「ラスカ」 焦る心は、綺麗に覆い隠せたらしい。きょとんと見上げる瞳に今映っているのは、自分。 「もう一戦、やってみるかい?」 どんな言葉が出てきたとしても、構わない。 ラスカのチェスの腕は悪くない。ルック自身、油断すれば負かされかねない。 「じゃ、月並みだけど、勝った人の言うことをひとつ、何でも聞くこと」 愚直なまでに真っ直ぐな笑顔を思い出して、ルックは微かに顔をしかめた。 コトリと駒が戦場に着地する音。陽の光を鈍く反射する、ポーンのなだらかな曲線。穏やかな時間。 「何でも言うことを聞く、だったっけ?」 再びテーブルに沈んだラスカに、再び取り合げたキングを転がしながら、ルックが微かに笑う。 「それじゃ、今日一日、キミに対する全ての誘い文句の返答権を貰うよ」 久々に一日中一緒にいる、いい名目。謀ったわけではないが、丁度いい。 「ラースーカーさーんっ!」 「クウ、シュウさんと仕事から解放されたのかな…?」 「ラスカさんっ、一緒に逃げましょう。今に鬼軍師が追ってきますから!…痛っ」 結局何も言えないまま、ルックの転移魔法で何処かへと飛ばされたクウに、ラスカは僅かにルックを睨んだ。 「ルック…どこにやったの?」 クウが戻って来る前に移動しないと、そろそろ来るであろう"鬼軍師"と軍主の諍いに巻き込まれかねない。 「ん…図書館。キミに教えてもらった魔術書、幾つか分からない所があったから…解説頼みたいな」 いくらでも。そう言いかけて、やめて。 ラスカのナナミ城滞在期間が長くても、いつでも会いに行ける能力があっても、側にいる時間はさほど無い。
ラスカは酒…というより、酒場の活気が好きだった。しかも始末の悪いことに、かなりの酒豪。 続いて駆け寄ってくるのは、青雷。 旧知の仲間…しかも相手は、かの解放軍では副リーダーとして、ラスカの片腕を務めた男だ。 「両方パス。そうだね、ラスカ」 城内の施設や通路では、旧知の仲間を始めとする不特定多数の人間に、ラスカは声を掛けられる。 図書館、人気の無い専門書に囲まれたスペースに着地して、ルックはようやく溜め息を零した。 「…何だい」 誰の所為だ、誰の。 そう反論する代わりに、肩に掛かっていた長いバンダナの片尾を持ち上げて、そっと口付ける。 「…ほ、本、探してくるね…」 独占欲。他人に気持ちの大半を支配される事。非常に気に入らない。 「本当、悪くないけどね…」 再びそう呟いて、背の高い本棚に苦戦するラスカの方へと、ルックはゆっくりと歩き出した。
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長いばかりで意味皆無…ごふぅ。 ちょっと変わった賭けの内容が書いてみたかった話でした(マテ)。 気持ちいいだろうなー片っ端から誘い断るの。 ちなみに友情の延長線→恋愛感情未満くらいの気持ちで書きましたが、微妙…。
2004年10月 |