◆スタンス◆

    幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
    軍名ナナミ軍・城名ナナミ城


    「ラスカ・マクドールさん、一緒に戦ってくださいっ!」

    先日知り合ったばかりの少年クウ―デュナンのナナミ軍とやらのリーダーらしい―は、
    ぼくの前で元気いっぱいに頭を下げた。

    この技で、この紋章で、この腕で、ぼくは多くの命を奪ってきた。
    …まだ、ぼくに戦えというのか。

    「坊ちゃん、お出かけですか?」

    いつもの赤い胴衣と黒い棍を手に、グレミオはにこにこと言った。
    まだぼく、返事もしていないんですけれど…。

    「あ、坊ちゃん。夕飯までには帰ってくださいね」

    いや、無理だから…。

    本人の意思を確かめずして、すでに送り出す気満々のグレミオに見送られて、ぼくはクウに手を取られ、
    再び戦場に舞い戻るハメになった。

    クウの後方、緑の着衣の某魔法使いが、不機嫌そうに盛大な溜め息を吐いたのを聞いたけれど、
    ぼくは気付かなかったフリをした。


    これをきっかけに、クウは頻繁にトランにぼくを迎えに来るようになって、当然ぼくのナナミ城
    滞在時間は増えて、当然戦闘に駆り出される事も増えた。

    テッドは言っていた、ソウルイーターが戦を起こす、と。

    ぼくは随分長い間、バナーにいた。
    ぼくがデュナンに留まっていたせいで、この戦が起きたのだとしたら…ぼくは。



    「…迷惑なら迷惑だと言ってやればいいんだよ。あいつは、言われなきゃ気付かないんだから」
    「迷惑…ってほどではないけれど」

    不機嫌に、吐き捨てるように言うルックに、ぼくは苦笑してみせる。変わってない。

    「…責任を背負いすぎるのは、きみの悪いクセだね。
     この戦は、その紋章とは関係ないよ。"真の紋章"の存在自体が、戦を呼ぶんだ」

    真の紋章を忌むような、鋭い瞳。あるいは、本当に忌み嫌っているのかもしれない。
    それでも、この紋章はぼくにとって特別だ。大切な人たちの魂が…ここにある。

    「…ルック、ぼくがそんな事を気にするタイプに見える?」
    「…見えないね」
    「だろう?」

    そう、気にしていない。
    にっと笑って、ぼくは探るようなルックの瞳に背を向けた。空はよく晴れている。

    …溜め息交じりの声。

    「…そういうスタンスは、自己防衛の為かい?」

    苦笑するしかなかった。やっぱり見透かされたか。

    「…まぁね。ルックと同じだよ」
    「…ふん」

    肯定も否定もしていない返答。ぼくたちは、多分、ほんの少しだけ似ている。

    ぼくは傷つけない為に、そして傷つかないために受け入れる。
    ルックは傷つかない為、傷つけない為に寄せ付けない。

    やんわりと背後から肩を抱きしめられて、ぼくは思わず体を硬くした。

    「これも、悪いクセだね。ぼくは刺客じゃないし、きみはもうリーダーじゃない」
    「嫌なクセが染み付いちゃったな」
    「…無防備なよりは、いいけれどね…」

    肩に、顎の当たる感触。
    ルックと過ごす時間は、不思議と落ち着く。グレミオやビクトールたちとは、少し違う安心感。

    「無防備なよりは、確かにいいけれど」
    「けれど?」
    「ぼくの前でくらい、そのスタンス、崩しなよ…不愉快だよ」

    ルックこそ、と反論しかけて、ぼくは言葉を呑み込んだ。
    誰をも寄せ付けない彼のスタンスは、今は崩れている。

    「…強がるのは、ぼくのクセなんだ。スタンスなんて、とっくに崩れてるよ」

    そう。だから、彼と過ごす時間は落ち着くんだ。

    「じゃあ、次は強がるクセも、ぼくの前では無くすんだね」
    「うーん…無くせるかな…」

    コンコン、とドアをノックする音。同時に、すっかり聞き慣れた元気な声。

    「ラースカさーんっ、かくれんぼしませんか?うちの鬼軍師が鬼なんですけど」

    ドアの向こうでアハッ☆と楽しげに笑ったクウに反し、ビキッ、とルックの雰囲気が変わった。
    人を寄せ付けないどころじゃない、吹き飛ばしかねない雰囲気だ…。

    こんなんで、よくこの軍に加わったな…あ、レックナート様の勅命かな。

    「ラスカ、つかまって。行きたい所は?」
    「はい?…あ、ええと…そうだ、海が見てみたいな。駄目ならテッドのお墓参りに…」

    「海だね。行くよ」

    即答ですか、と笑う暇も無く、風に包まれる。
    やっぱりぼくも、充分スタンス崩れてるよな、なんて、風の中で、ぼくはこっそり笑った。


    Fin.

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    ぼくぼくぼくぼく鬱陶しいコンビだなぁ(コラ
    最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

    スタンス(stance)=態度・立場:姿勢…ここでは姿勢で。
    穏やかな毒舌の応酬を描きたかったんですが、盛り上がりませんでした(=_=)

    ルク坊は行動・台詞・立場的にも非常に書き易くて楽です(笑)
    次はビク坊とか書きたいなぁ。

    2005年6月