◆彼岸花/後編◆
幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
軍名ナナミ軍・城名ナナミ城
久々のトランは、相変わらず新国らしい活気に包まれている。
「迎えに来た」だけでは、多分あいつは苦笑する。
だから、墓参りの"ついで"を装う為に、適当な店で適当に花を買った。
ロクに面識のないおれ達が墓参りだなんて、いかにもな言い訳だけど、気持ちは汲んでくれるだろう。
おれの手の中の花束にちらりと目をやって、ルックはつまらなそうに顔をしかめた。
「その辺の雑草でも抜いていけば、充分なのに」
「お前、ホント嫌いなのな。そんなに気が合わなかったのか」
好き嫌い激しいもんなと言いかけて、慌てて飲み込む。ヘタな事言って置いてかれたら、堪らない。
再び風に包まれて、着いた先に、やっぱりあいつはいた。
風にバンダナの尾を流し、白い墓標の前に立つ背中は、おれ達を率いたあの頃と変わらない。
気配に気付いたんだろう。振り返ったその表情は、思っていたよりも明るかった。
「よ、奇遇だな」
片手を上げてみせたおれに、ラスカは穏やかな笑みを浮かべた。
「よくここが分かったね」
「おれ達が来るのが分かってたみたいな物言いだなあ」
「うん、なんとなく。前も、よく迎えに来たし」
「お前、ほとんど部屋にいなかったからな」
湖のあの城で、ラスカが自室にいる事はほとんど無かった。
船着場とか、屋上とか、外れの断崖とか…とにかく時間があれば、気まぐれに城内をフラフラしていた。
その性癖は、ラスカの親しい人間が消えていくたびに、酷くなっていった。
なかなか部屋に戻ろうとしないラスカの側で、おれ達はよく、黙って空を見ていた。
墓標の前に花束を置いて、ついでにナナミケーキも供えて、祈りを捧げる。
あんたの事、おれはよく知らないけれど―ラスカはあんたのお陰で、壊れずに済んだ。感謝してる。
いつまでもってのは無理だけど、あんたが出来なかった分くらいは、おれ達が側にいるよ。
だから、おれ達が出来なくなった時は、任せたからな。
「…おっし」
「何を真剣に祈ってたんだ?シーナ、面識なかった…よね」
「そこはほら、まぁ色々と」
「神様じゃないんだから、願掛けは効かないと思うけど」
「…そんな区別がこのバカにつくワケないだろ」
口を開いたかと思えば、これだ。
おれと性悪魔法使いの間で、ばしっと火花が散った。
そんなおれ達の間で、ラスカはというと、面白そうに笑ってる。
その顔に安心して、おれは肩を竦める。ルックも、口の端でわずかに笑った。
「さて、これからどうするんだ?」
「迎えが来るまで、ぼーっとしてようかと思ってたんだけど…」
「どうせ帰りは一瞬だし、少しのんびりしてくか」
痛い痛い痛い、視線がめちゃくちゃ突き刺さってるんですけどー。
不快オーラ全開のルックに、ラスカが苦笑した。
「ルック、駄目?」
「……分かったよ、好きにしなよ」
さすが最強。
小さな歓声を上げて、即行で草の上に寝転がったおれ達を見下ろして、ルックが溜め息をついた。
仕方がなさそうにラスカの横に座ったけれど、普段はキツい目つきが、甘くなってる。
こんな時、いつも心のどこかで、こうするのもこれが最後かも、と思う。
だけど、申し合わせたように、おれ達は誰一人として、それを口にしない。
友達である事を確認しないように、それは至極当然のように。
空をゆっくりと流れる雲を眺めて、談笑して。
日が暮れかけるまで、おれ達はそうしていた。
おわり
再会の目途のない友達同士の心情や行動とか、
面識のないT氏(ネタバレ防止策/笑)に対する周囲の感情とか、
面白そうかなーって辺りをマッタリ描いてみました。
そして人数が増えたとたんに無口になるルック…負けましたorz
2005年10月