◆落とし穴/後編◆
「…あ」
「あ?…うをッ!?」
丸い空を見上げ、ラスカが声を漏らす。
釣られて上を見たフリックの上に、何かが激しく落下した。
「ラスカさん〜!こんな所にいたんですか!捜しましたよ、もう!」
グリグリとフリックを踏みつけて元気に笑ったのは、ナナミ軍主、クウ。
穴の外では、その義姉ナナミが、ひらひらと手を振っている。
「待っててね、すぐに誰か呼んで来るから!クウ、ラスカさんに失礼な事しちゃ駄目だからね!!」
パタパタと軽い足音が遠ざかっていく。それを追うように、赤いマントのムササビが狭い空を横切った。
「朝からずっと捜してたんですよ!?荷物も置いたままだったし、誰かに攫われたんじゃないかと…
ぼくもナナミも、気が気じゃありませんでしたよ〜!」
「簡単に攫われるほど、弱くはないつもりだけど」
「怪我は無いですか!?まったく、一体誰がこんな所に穴なんて掘ったんでしょうね」
「ぼくが掘った」
「とにかく、無事で何よりです。でも、土が沢山ついちゃってますよ。
ここを出たら、一緒にお風呂に行きましょうね!」
「構わないけれど…フリック踏んでるよ」
「ナナミ、遅いですねー。あ、お腹空きません?」
成り立っているようで成り立っていない会話を気にする様子は、クウにもラスカにもない。
足の下でもがいているフリックを容赦なく踏みつけて、爽やかにクウは笑った。
「今日はホントにいい天気ですよ〜。後でお弁当持って、ピクニックにでも行きましょうか!」
「ムササビも一緒なら、行く」
「五匹そろえて、お持ちします☆」
「ムム〜」
噂をすれば何とやら。赤マントのムササビが、ボテッと降ってきた。
嬉しそうに、すかさずラスカがムササビを抱き上げる。
初対面の時こそ、敵と間違えて本気で棍を構えもしたが、今ではムクムクを始めとする五匹のムササビは、
すっかりラスカのお気に入りだった。
「クウー!助け、呼んできたよ〜!ホラ、おっさん!早くー!!」
「誰がおっさんだ、コラ!…おお、見事に落ちてるな。待ってろよ、今出してやるからな」
ナナミとビクトールの顔が交互に穴を覗き、すぐに引っ込んだ。
ゴソゴソと何かを探す音と、ナナミの急かす声だけが聞こえる。
そして、クウの足の下でも、くぐもった声が聞こえる。
「クウ…どいてくれ…」
「ん〜?ラスカさん一人助けられなかった、青〜い人の声がドコからか聞こえますね」
「そ、それは認めるが…お前、何で怒ってるん―痛だだだっ!」
「空耳ですね、きっと!ラスカさん、お先にドウゾ!」
掛けられた縄梯子をラスカに勧めて、ついでに、持ち上がりかかったフリックの頭を勢いよく踏みつけ、
やはり爽やかにクウは微笑んだ。
「クウ…フリックは確かに役に立たなかったし、青いけど…仕方のない事だから、許してやってくれないか」
「ラスカ、いくらなんでもそれは言い過ぎ―ぐあッ!!」
「…ラスカさんがそう言うなら…分かりました。ニナと二人っきりの刑で許しましょう」
「まっ、待て!それだけは…!!」
「ナナミ〜!ニナ呼んで来て〜!!」
「ニナちゃんだね、了ー解☆」
…その後、無事にフリックが穴から引き上げられたか否かは、定かではない…。
Fin.
言い訳後書き
幻水お笑い小説、「落とし穴」でした。
「落書き」に続いて、坊ちゃん悪戯シリーズですか?
1ページに収めるには長すぎるかと思い、急遽2ページ仕立てにしました。
私、スクロールバーが長いと、とたんに読む気が失せる人間ですので〜(^_^;
うちのフリック兄さん、基本的に格好悪いです…(汗)
とある素敵サイト様で描かれていたフリックに、目から鱗が落ちる思いでした(苦笑)
でも、私が書くとこんな風になっちゃうんだよなぁ…。七不思議。
2004年1月