◆stew大作戦/後編◆
幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
軍名ナナミ軍・城名ナナミ城
時間帯によっては凄まじい混みあいを見せるレストランも、昼食には少々早めの今はまだ、ぽつぽつと
一目で数えられる程度の人数しか見えない。
シュウの特製シチュー?の放つ独特な悪臭は無く、代わりに昼食用のメニューだろうか、美味しそうな匂いが
レストランの中を満たしていた。
シュウが覆面コンビに指図し、クウとラスカを手早く強引に、席に座らせる。
満足そうなその顔を、口に嵌ったままだったドアノブをようやく外し、不服そうにクウがにらんだ。
「ラスカさん、本当にすみません。うちの軍師、時々暴走するんですよー。熊と青雷、今度敵陣に単騎突入」
「ん…楽しそうだし、構わないよ。あ、単騎突入より、書類整理の方が、二人には苦だと思うけど…」
「そっか、そうします☆」
へらりと笑うクウとは対称に、心なしか、覆面コンビが青くなった気がした。
いつの間にか厨房へ行っていたらしい。戻ってきたシュウが、ラスカに笑いかけた。
「マクドール殿、少々お待ちください。すぐにクウ殿の作ったシチューが参りますので」
「だから、そんなもの作ってな…ごぶッ!!」
にこやかな表情のまま、シュウがクウの口に突っ込んだのは、軍主命令でクウがレストランのメニューに
置かせている、"ナナミプリン・ナナミアイス添え"…。
もちろんこれは、料理そのものを楽しむ為に置いているのではない。
ひとえにクウの、下手の横好きながらも料理を好む、義姉への愛情ゆえだった。
普段は、一部で罰ゲームに有効利用されているらしい。
…つまり、早い話が、食用には適さない。
カクリと気を失ったクウの隣で首を傾げるラスカに、青マントが小声で話しかけた。
シュウは早くも、クウが気を取り戻した時の為の"ナナミスペシャル"を取りに戻っている。
「ラスカ、今のうちに逃げろ。よくは知らんが、何かヤバいものが出てくるらしい」
「でも、ぼくが逃げたら、フリックたちが困らない?」
「…いや…まぁ、そりゃあ。でも、お前に何かあるよりは…」
「んー、大丈夫だと思うけど」
反論しかけた青マントの覆面の口を塞ぐ仕草をして、ラスカが笑った。
「この匂いに、覚え、ない?」
厨房からシュウに連れられて、いそいそと湯気の立つシチューを運んできたのは、緑マントの覆面。
覆面の下から、長い金髪が零れている。
「はい、お待たせしましたー。グレ…ええと、特製シチュー一丁!」
シュウと覆面たちが見守る中、ラスカがひと口、スプーンを運ぶ。
高まる緊張の中、かすかに眉をひそめ、ラスカが恨めしげに緑マント覆面を見上げた。
「…うー…嫌いなもの、入ってる…」
「夕飯までにはお帰りくださいと申し上げたでしょう」
腰に手を当て、仁王立ちに立った緑マント覆面が、不機嫌な声を漏らし始める。
耳を塞ぎかけたラスカの手を捕まえ、緑マントは言葉を続けた。
「連絡一つよこさずに…あれから何日経ったと思っているんですか!」
「…ええと、2日くらい?」
「なーにをすっとぼけた事おっしゃるんです、六日ですよ、む・い・か!
グレミオは心配で心配で、ついシチューに坊ちゃんのお嫌いな物を大量投入してしまいましたよ」
ふいにくるりと矛先を変え、緑マント覆面―グレミオは、シュウたちに向き直った。
「責任者はどなたです?全く…帰ってきたその日に迎えに来るのだけは、やめて頂きたいのですが」
相当怒っているようだが、覆面のお蔭で、間抜けさだけが酷く際立っている。
思わず「ぶふッ」と吹き出したくすんだ山吹色の服を纏った覆面に、グレミオ愛用のお玉が飛んだ。
「それと!厨房で悪臭を放っていた得体の知れない料理を作ったのは、どなたです?
あんなものを食べさせる所に、坊ちゃんを置いてはおけません」
微妙に道は違うが、作戦成功…ニヤリとシュウが笑んだ。
「そういうわけで、あれを作った方には、私が一週間かけて、みっちり料理を仕込ませていただきます」
ゴォォン…。
シュウの顔が、一瞬で"この世の終わり"としか表現しようの無い表情に変わった。
いや、でも、軍主の職務怠慢の原因であるラスカ・マクドールさえ実家に帰れば…。
「グレミオ、ここに滞在するのか…?ぼくは…?」
「そうですね…お一人で帰すのは心配ですし、坊ちゃんもグレミオにお付き合いください」
シュウの顔が、再び"この世の終わり"モードに変わった。
「さぁ、すぐにでも始めますよ。坊ちゃん、すぐにまともな物が食べられるようになりますからね!」
「酷い言い様だよ〜〜!あのシチューを作ったのは、シュウさんだよ〜〜!他は美味しいよ〜〜」
ゴォォン…。
その後、ナナミ軍軍師の料理の腕が上がったとか、上がらなかったとか。
おわり
ようやく終わりました…長らくありがとうございました。
何だかもう、本当にすみません(汗)
キャラ壊れっぱなしのシュウ。こんな軍師…ちょっと素敵v
でも、ファンの方には土下座しますm(>△<)m
そのうち、長編ルカ坊小説を描いてみたいです…お笑い系で(マテ)
お笑い系の長編って、あまり見かけませんよね〜。
2004年6月