◆春宵/後編◆
幻水2/坊→ラスカ・2主→クウ
軍名ナナミ軍・城名ナナミ城
かの人は、春の宵のような人だった。
優しく、どこか危うい、憂いを帯びた人。
月に照らされた桜は、白く淡く浮かび上がって、ひらひらと風に舞っていた。
幻想的なその景色は、声も出ないほど綺麗で、淋しくて、ほんの少し恐ろしい。
少し身震いをして、カスミは、視線を周囲に廻らせた。
クウやナナミを中心とする年若い少年少女は、ワイワイと花見を―というよりは、"休息"を楽しんでいる。
ビクトールら保護者組は、クウ達から少し離れた場所で、のんびりと飲んでいる。
人の輪から外れた場所、桜の木の根元には、ルックと―なぜかムササビが二匹。
その奥、月明かりに浮かぶ、すっと伸びた姿勢に、カスミは胸を押さえた。
気がつけば、いつも目が追っていた人。忘れた日など、きっと無い。
少し迷ってから、カスミは歩き出した。
小さかった影が、大きくなっていく。
「…ラスカ様…」
「…カスミさん」
何かを言おうとして、けれど言葉にならなくて、カスミは視線を落とした。
「…綺麗だね。少し、月が眩しいけれど」
「…ラスカ様」
「うん…?」
「今回の戦が終わったら…また旅に、出られるのですか?」
「そうだね…。行き先も決まってはいないけれど…」
「その旅に…私も、同行させて頂いては、ご迷惑でしょうか…?」
ざあ、と風が、桜の木々を、草を、視線を交わす二人を撫ぜた。
「…ありがとう、カスミさん」
でも、と言葉が続くのを、カスミは知っていた。
「…ぼくは、まだ…この紋章を御する自信も、出来ている確信もない。だから…」
「…はい…」
風。
「…ラスカ様は」
桜の花びらが舞う。
「ラスカ様は、春の宵に…似てらっしゃいますね」
カスミの声に、ラスカは微かに笑った。
「カスミさんは…桜に、似ているね」
優しく暖かい、けれどどこか、危うげで哀しい、春の宵。
慎ましやかで、どこか憂いを帯びていて…けれど、美しく凛とした、桜。
心だけでも―側に。
「今だけでも…お側にいさせて、くださいますか…?」
ラスカが笑って、小さく頷く。カスミも、少し笑った。
白い月に舞う花びらを、風に揺れる桜を、二人は、いつまでも見ていた。
おわり
毎度遅刻の季節ネタ、桜でした。
初の坊vカスミ小説、二人とも動かない動かない。
所詮ギャグしか描けないのか、私は。
ならば、坊vカスミでギャグを…!(笑)
同タイトルのイラストがありますが、ほぼ無関係です。
2005年5月