乗りなれた車の穏やかな揺れが、酷く心地良い。
気だるく重い体と熱っぽい頭は、うとうとと眠りの淵へと身を滑らせようとしていた。
助手席に見えるのは母のブラウンの髪、運転席には自分のそれと良く似た、父のプラチナブロンド。

家に着けば、自分は真っ直ぐ父の腕でベッドに運ばれてしまうだろう。
けれど、家には兄がいる。両親の目を盗んで、本や玩具や話題を抱えて、密かに遊びに来てくれる兄が。

眠りは緩慢に覆い被さって、ラスティアはゆっくりと目を閉じた。

「あら?あなた、ほら、あそこ。誰かが手を振ってる」
「ホントだ。エンストかな?」

両親の声。車が止まる。
窓の開く、機械的な音。

「どうかされたん―」

言いかけた父の声が、パスン、という短い音と共に途切れた。
母の悲鳴。頭が覚醒する。

身を起こしたラスティアの前で、母の頭を右から左へと何かが抜けるように、赤い液体が飛び出した。
また、パスン、と。

「おかあさん…?」

窓から黒い手が伸びて、車の鍵を開ける。
長く黒いコート、目深に被った黒い帽子から覗く顔は、薄汚れた包帯に覆われて。

悲鳴も出ない。

黒い手に腕を掴まれて、車外に引きずり出される。

おとうさん、おかあさん。

車の中に、眠るようにぐったりと沈んでいる、二人の頭が見えた。



PRIVATE ENEMY

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