ANSWER ※この話は、微妙に下記一編の続編です。

前話「壊れていくこの世界で」


 「今日の収穫は、六つ」

 (にび)色のタグを無造作に鉄の小箱に投げ入れ、青年は青いモニターに目を向けた。
 ひろん、と愛らしい電子音と共に、モニターに白く表示された沢山の名前幾つかが、灰色に変わる。

 あの世というものが存在するかはさておき、たった今灰色になった名の持ち主達は、すでにこの世にはいない。
青年が狩り、命の証であるアニマ・タグを掠め盗ってきたのだから。

 モニターを確認するでもなく、青年は部屋に備え付けられた無機質な灰色のガラスケースから、
透明なグラスをひとつ取り出した。

 タグの持ち主のひとりから戴いてきたワインを開け、グラスに注ぐ。

 海のように蒼いそのワインは、特殊な工程で作られた、ごく珍しいワインらしい。
 それ以上のことは青年は知らなかったが、味さえ良ければ、製作過程など彼にとってはどうでもよかった。

 涼やかな香。ふいに脳裏に浮かぶ、幼さの残る白い顔。
 『―そんな事、望まないよ』

 青年は多くの人に問いかけた。
 彼の問いかけに、人々は皆、肯定の言葉を口にする。

 彼が狙う獲物は皆、絶望と苦悩に満ち、世に倦んでいる。
まるで、この世の全ての不幸を一身に引き受けているかのように。

 なんて傲慢な人間達だろうと、内心で冷笑し、青年は彼らの望みを叶えてきた。
 彼らの世界――人生に"終末"を与えた。

 首にかけた細い銀の鎖を手繰り寄せ、半年前から持ち歩いているタグを胸元から引っ張り出す。
青年の前で、タグは淡く七色に煌々(きらきら)と揺れた。

 四角い空から舞い降りた青年の問いに、
不自然に清潔な、天に近い白い部屋に閉じ込められた少年は、雲よりも白い顔で微笑んだ。

 「そんな事、望まないよ。
  僕が死んでも、この世界には、まだ僕の大好きな人が居るから」

 「死んだら、会えなくなるよ。オレが世界を滅ぼせば、彼女と一緒に死ねる」
 「一緒に死んだからって、また会えるとは限らないじゃないか」

 淡い七色に光るアニマ・タグは、美しい何かを心に抱いた者の、透明な命の証。

 「それに、彼女には幸せになってほしいんだ。僕には何も出来ないけれど」

 絶望と苦悩に染まっていない命は、青年の"獲物"ではない。だが、惹かれた。欲しかった。

 青年が淡い虹色のタグを手に入れて、半年が経った。
 だが、今なお、彼にはあの少年の心理は理解出来ないでいる。

 だから、明日も青年は世に倦んだ人々に問うのだ。
 その胸元に、虹色のアニマ・タグを淡く輝かせて。

 「キミが望むなら、オレは世界を滅ぼしてあげるよ」

Fin.


11作目囁ピエ、[ANSWER]でした。
判明した"答え"ではなく、未だ見付からない"答え"。

"アニマ(anima)"は霊魂,生命を表すアフリカ人の言葉でしたか。
"タグ"は米軍兵の認識票ドッグ・タグから。まんまですね(笑)


初話「壊れていくこの世界で◆次話「ANSWER」◆最終話「クリア・スカイ


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